- 2010-11-15 (月) 0:00
- ラングランドカルチャー
お産という人間にとって最も根源的な現実と向き合う
ドキュメンタリー映画『玄牝(げんぴん)』をご紹介します。

舞台は、愛知県岡崎市にある吉村医院。
木々が生い茂る茅葺の古民家で共同生活を送り、
妊婦に薪割りや畑仕事をさせながら、自然分娩に取り組んでいる院長の吉村正先生。
そして、自分自身も自宅での自然分娩を自らカメラを持ち撮影したことのある河瀨さんが、
今回は、撮影時間が最長10分の16mmフィルムでの撮影。
対象に向き合う、その真摯な姿勢が、全編通して観る者の心を打ちます。
この作品の素晴らしいのは、赤ちゃんを産み、「ありがとう」だけでは終わらないところ。
その世界では、神のような存在でもある吉村先生をして、
「私は今すぐにでも医師を辞めたい・・・」と言わせたり、
助産婦さんの口からは(吉村院長のことを)「“独裁者”と言ったら強すぎるかもしれないけど・・・」と、
本音を語るシーンもあり、河瀨さんの見事なまでの人間力と映画作家としての覚悟が
このドキュメンタリー作品をより優れたものにしています。
およそ半世紀も自然分娩に携わってきた吉村先生が、
助産婦さんたちを前にして涙を流し、本音を語るシーンは河瀨監督にしか撮れないでしょう。
吉村先生が妊婦さんへ繰り返し言うことば。
「ごろごろ、ぱくぱく、びくびくしない」
“現代的な生活に頼らず、伝統的な日本の食事をし、不安を抱えず自然体でいること”は、
きっと出産から離れた日常にも言えることだと思います。
三つ目の“びくびくしない”、これだけは人間にとって永遠のテーマなのでしょうけれど。
この作品は、第58回サンセバスチャン国際映画祭コンペティション部門で
国際批評家連盟賞を受賞。
病院での無痛分娩が一般的なスペインにおいて、
この作品を紹介したこと自体すごいことだと思いますが、
河瀨監督の世界観が異文化にも受け入れられたのではないでしょうか。
最後に、河瀨監督の印象に残ったことばを。
「現代人は死や汚れたものを見ないようにしている。でも、死を意識し、それを乗り越えることで達成感を得られるんじゃないか。それが、他者や地域を大切に思って生きることにも繋がると思うんです」
※玄牝とは『谷神不死。是謂玄牝』・・・谷神(こくしん)は死せず。これを玄牝という。
タイトルの『玄牝』とは、老子の『道徳経』第6章にあることば。
大河の源流にある谷神は、とめどなく生命を生み出しながらも絶えることはない。
谷神同様、女性(器)もまた、万物を生み出す源であり、その働きは尽きることがない。
老子はこれを玄牝“神秘なる母性”と呼んでいる。
スタッフS.S
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